夏庵`s nest

nest [nest]
1(鳥, 虫, 魚, 小動物の)巣, 巣穴.
2居心地のいい場所, 休み場所, 隠れ場所, 避難所.

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「トニー滝谷」
村上春樹の、もうずいぶん前に書かれた短編小説の映画化。
やはり一番興味を惹かれたのは、村上春樹が原作も使用を許可したこと。
「風の歌を聴け」ですっかり懲りたもんだと思ってたのだが(笑
トニー滝谷 プレミアム・エディション
トニー滝谷 プレミアム・エディション

出来上がった作品は原作に忠実(いろんな意味で)にもかかわらず、紛うことなき市川準の世界でもあり、何よりも一本の映画なのでした。
登場人物はほぼふたりだけ。もっともその主役ふたりはそれぞれ二役をこなしてるのだが。
ストーリーは第三者の朗読によってしかも原作そのままの文章(未確認、少し違うかもしれない)を朗読することで進んでいく。
時折、映画の登場人物がせりふ(のようにだけど)じゃなく地の文章を朗読する。いわゆる映画らしい、リアルな会話の芝居はほとんどない。
音楽も坂本龍一のソロピアノのみ、伴奏というべきか。

形としては非常にミニマルな構造の映画といえるかもしれない。
でもそこにあるのは、シンプルであろうなんてまるで考えていない監督の野心さえ見える「仕掛け」の映画だ。

まず朗読を中心に進められる物語の進行は舞台にふたりだけで座り、朗読を繰り返す、朗読劇を思わせる。物語の進行をする朗読は主役ふたりとは別人の手によるものだが、ふたりが時々地の文をしゃべるので、二人だけの物語なのだなという印象のほうが強い。(ここら辺は最近の村上氏の小説における人称の問題とも重なるようで興味深い)
そして、右から左へと暗転をはさみながら展開していく場面構成は、舞台風というよりも僕には紙芝居なのではないかと思われた。
そして人物を逆光で照らすライティングはまるで影絵芝居のようだなと思った。

つまり、今まで映画では必要ないと思われていたことばかりやってるように思うのである。
状況説明を全部ナレーションで済ましてしまうというのは、映画の脚本で一番やってはいけないことである。
すなわち、市川準はこの物語そのものにはなから興味があるわけではないということではないか。
右から左へ流れていく場面展開は、もちろん過去の作品にも意図的に暗転をはさんだり、場面展開の間にぜんぜん関係ない風景や静物のほぼスチル写真のような場面を挟み込むことによってある種の映画のリズムを作るという演出はあった。
それは基本的に光と闇が絶え間なく連続することによって得られる残像効果こそが映画であり、その特性がたとえその理屈を意識しなくてもサブリミナル的に僕らは理解しているのであり、動かない画面や闇ばかりが続く画面に、本能的にこれは休みと認識するからこそ、リズムとして有効になるのであり、画面から画面へのゆっくりとしたしたパンは、ただフイルムからフイルムへの冗長な移動しか意識させず、むしろ逆効果なのではないか。
(例えば、紙芝居の一枚目から二枚目に移る間を、それは必要なリズムと認識するだろうか。ただもどかしいばかりではないのか。)
影絵的演出と言うのはこれもいくらでもある演出である。つまり、見えない犯人の接近をそれで現す、サスペンスの常套手段である。
しかし主人公そのものを影絵の人形のように動かす必要があるのだとしたらそれは何なのだろう。
他にもいろいろとあるのだけれど、それだけ映画的でないにもかかわらず、これは映画であった。
それは今まで映画に映さなかったものを映そうとするためではないのだろうか。
その一手においてこれらの非常にシンプルでそぎ落としたかのように見えながら実に意図的に作りこむ映画的野心に満ちて、かつある程度までそれを成功させたがゆえに、これは一本の映画なんだと思う。

この話の主人公、すなわち映画に映し出したかったのはこの小説の作者の、小説執筆中の心象風景であり、この映画を作った監督自身の映像に関する野心そのものなのではないか。つまりこの映画作家は、短編小説を構想し、それを執筆していく過程そのものを、この奇妙な物語が構想され徐々に物語の体裁になっていくことそれそのものを映像にしたかったのではないだろうか。そしてそれは小説という言葉のかたまりを、映画という映像表現に作り変えていく、自分自身のドキュメンタリーだったのではないか。


この映画は、その製作過程、いわゆるメイキングが一般映画として公開されたと聞く。
その映画はDVDにならないのだろうか。


ともあれ、好き嫌いの分かれる映画です。退屈な人にはこの上なく退屈かもしれない、でも決して難しい映画じゃないとは思います。
で、正直に言うとこれはどうだろうと思われる部分もいくつかありましたが(ラストは必要ない派です、僕は)すごくいい映画だと思う。
ぜひ観てみてください。
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